たとえば......

たとえば、ボクは、日本の着物の研究かなにかをしていて、着物こそは世界に誇るべき日本の文化の最高峰だと信じていて、愛していて。

あるとき、アメリカかどこかに旅行をしたときに、現地の金持ち風のおじさんに「あなた日本人ですか?」と声を掛けられて、「そうです」と答えると、そのおじさんは顔を輝かせて「実はうちのワイフが大の日本びいきなので、ぜひうちに来て日本の話をしてやってください」なんて言う。

「案外日本人ほど日本の文化には疎いものですが、ボクは着物の研究をしていまして、そんな話くらいならいくらでもできますが」と言うと、おじさんはオーマイゴッドといわんばかりの興奮ぶりで、「マイワイフはキモノが大好きで、日本に旅行したときにはいつも買って帰るのですよ。こりゃあ運命的な出会いだ。ぜったいにうちに来てください。すぐに来てください!」と。

それで、そのおじさんはすぐさま愛するワイフに電話して、「いまから日本のキモノの専門家をお招きするからいろいろ教えてもらいなさい」と言うと、電話口の奥さんも大変に興奮している様子が伝わってきて。

そんなわけで、おじさんのBMWに乗ってお宅まで連れていってもらう。ボクも悪い気はしない。悪い気がしないどころか、どんなことをしゃべろうかと考えて、わくわくしたりもする。

豪邸に車がつくと、奥さんが門のところまで飛び出してきた。

浅草とかで売っている、ナイロンのおみやげもののキモノを誇らしげに風になびかせて......。

でも、「それはほんとうのキモノじゃあないんですよ」とボクが言うことに何の意味があるだろう?

この人は、愛すべきこの人は、このキモノに満足して、このキモノを愛して、日本の文化はすばらしいとハッピーな気持ちでいるのだし。それはそれですばらしいことだし、ナイロンのキモノにだっておみやげものとしての価値があるのだし。

だから、「素敵な色のキモノですね」とかなんとか引きつる顔をごまかしごまかし笑って、ボクは話をするわけです。早く帰りたいなあ、と思いながら、こんなふうに愛想笑いをしている自分が、なんだかみじめだなあと感じながら。

たとえるならば、なんか最近は、そんな気持ちのボクなのでした。

本日は、意味不明。

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